【コラム】編集後記 ~卒業生記者の取材ノートから~ ④関大野球部「渋男旋風」の裏に【後編】聖地を揺らした大声援。応援がナインに与えた力

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関大の卒業式まであと1日!関大スポーツ編集局から旅立つ2人の記者が、あの名場面や歓喜の裏側など、カンスポ記者生活の最後に伝えたいことを綴りました!

第47回明治神宮大会2回戦で関大が明大と対戦した昨年11月13日。一塁側の関大応援席を、2000人を超える観客が埋めた。関大はこの大会で優勝を果たす明大に1-4で敗れたものの、粘り強い戦いぶりと迫力ある応援は大きなインパクトを残した。数々の激闘の中、ナインを支えた応援の力を探った。

■応援される自覚
毎年5月初旬に関西大学応援団は「春季総合研修会」と銘打ち、リーダー部、吹奏楽部、バトン・チアリーダー部の3パートが合同合宿を行う。パート別練習の他、ミーティングや演武演奏の合同練習を行い、その代の応援団としての基礎を固めるためのものだ。昨年は関大高槻キャンパスで行われた。

同時期に高槻キャンパスのグラウンドで練習していた野球部。「主将にもなれば応援団との付き合いも多くなるし、ありがたみも分かる。けど、俺だけが思っていてもだめ」と、主将の松山和哉は部員を引き連れ、野球応援を想定した合同練習の様子を見に行った。
そこで目にしたのは、枯れた声を限界まで響かせる姿や力強い音楽を奏でる姿。汗か涙かわからぬような水滴にまみれた顔に、鋭い目つき。動きのミスが起きたり、気合が足りないと判断されたりするとやり直し。入部したばかりの1年生も、まだ顔も知らないであろう選手の名をさけんで必死に先輩に食らいついていた。応援団の懸命な姿は、応援される側の選手たちにも強く響いた。いつしか古川陸や高橋佑八ら、リーグ戦に出場している下級生が「応援団のためにも勝ちましょう」と口にするようになったことを松山は喜んだ。

■奮い立つナイン
昨秋、不動の3番打者として活躍した古川は、応援について印象深い場面があるという。10月31日。奈良学園大との関西地区第一代表決定戦での打順選択制タイブレークの延長十回。1死満塁で迎えた打席だ。
古川はこの試合中、守備の際に左手首を負傷。九回の打席では痛みのあまりスイングができず、見逃し三振に倒れている。それでも早瀬万豊監督は先頭打者に古川を指名。意気に感じた指揮官の期待と、鳴り物禁止の南港中央球場に響く必死の声援を力に変えた。見事に初球を捉え、左中間への適時二塁打に。「狙い通り一振りで仕留めることができました。応援の力は大きいですね」。

▲古川が「印象深い」と振り返った奈良学園大戦の延長十回の打席

自軍の応援が力になるのなら、相手の応援はどうなのか。
「関大の応援が一番すごいけど」と前置きした上で、選手たちが「脅威に感じた」と言うのが宿敵・関学大の応援だ。激しい優勝争いの中で迎えた昨秋の関関戦について尋ねると、松山は「もう(関学大に)優勝の可能性はないんだから、勝たせてくれというのが本音だったけど」と笑いつつも、「ライバルとしての意地を感じた」。当時、応援団長の竹内美沙保も「関学は野球部主将と応援団長の信頼関係がすごく良くて、それが応援にも表れていた」と認める。両校の意地がぶつかり、名勝負が生まれる伝統の戦い。関大は2、3回戦に勝利し、宿敵から5季連続の勝ち点をもぎ取ったが、1回戦は5-8で落としている。

「僕が出てきた時は関学のチャンスだったので、マウンドで感じた応援の圧はすごかったです」。そう話すのは3試合すべてに登板した濵田駿だ。サウスポーの濵田はセットポジションで構えた際、一塁側の関学大応援席に体が向く。その分、受ける重圧も大きいのかと思いきや「でも、全部僕への声援だと思って投げました」とさらりと話した。2、3回戦で白星を呼び込んだ好救援には、敵の応援を逆手に取る懐の深さがあった。

▲昨秋の関関戦での関大応援席

▲昨秋の関関戦(3回戦)で好救援を見せた濵田は笑顔でベンチに戻る

■聖地熱狂!魂の“エンドレス新コン”
大学野球の聖地、明治神宮球場に関大の応援が最もとどろいたのは3点を追う九回裏の攻撃中ではないだろうか。八回の得点時ももちろん大盛り上がりだったが、九回の応援はある意味「異様」だった。

先頭の7番・松山がヤクルトからドラフト2位指名を受けた星知弥のカーブを中前にはじき返して出塁すると、すかさず関大応援席はチャンス時の定番「新コン」(※1)を演奏し始める。なんとこれがゲームセットまでの10分49秒間続くのだ。特に驚くべきは、2死二塁で迎えた1番・多田桐吾の打席からゲームセットまでの7分37秒は「関大ダイナマイト」(※2)などの“つなぎ”もなく「新コン」を繰り返したことだ。

その理由を当時応援担当のリーダー部・上原幹平に尋ねるとシンプルな答えが返ってきた。「2死だったので、つなぎの曲で終わりたくなかったんです」。ひたすら根性を鍛える練習では行うことがあるというエンドレスでの「新コン」。試合では同じ曲をつなぎもなく、これほど長く続けることはないという。応援に表れた攻めの姿勢と勝利への執念が土壇場でナインを後押しする。
幾重にも重なるチアスティックがリズムを刻み、応援の熱気が高まる中、多田がフルカウントから四球を選び2死一、二塁。八回に適時打を放った途中出場の2番・松島恒陽は、完全な逆球が左腕を直撃。連続四死球で2死満塁となる。マウンド上の星は思わず苦い表情を浮かべ、明大ベンチから善波達也監督が駆け寄ってきた。この場面、関大の応援の力が星の手元を狂わせたように思えた。

▲明大戦の九回裏、松山の安打に沸くスタンド

続く3番・古川に対しても制球が乱れた球があったが、結果は二ゴロでゲームセット。試合では一歩及ばなかったが、応援は明治神宮球場を本拠とする明大を上回っていた。「応援してくれる姿や得点が入った時の盛り上がりは、東京に来てるっていう感じじゃなかった」とは、一塁側スタンドを対面から見た三塁コーチャーの森島の言葉だ。聖地で幕を下ろした「渋男 ~覇業への挑戦~」をスローガンに掲げた戦いは、応援が及ぼす力を示してくれた。

▲明大戦、試合前の学歌斉唱


▲(上2枚)2000人が応援に駆け付けた一塁側スタンド

そして、久米健夫新主将の下、「心 ~やったらんかい~」を新スローガンに関大野球部はスタートを切り、もう球春到来は間近だ。この春も強力な応援と、「全国制覇」を目指すナインの熱い戦いを期待している。【吉見元太】

※1「新コン」…関大の野球応援ではチャンス時の定番曲。「勝ーつぞ勝つぞ、関大 勝ーつぞ勝つぞ、関大 かっとばーせー(選手名) (相手チーム名)倒せ!」
※2「関大ダイナマイト」…応援時に曲と曲のつなぎなどに使用するテーマ。チアスティックを上下に振る振付でお馴染み